高校12期会追加

★牧陵会事務局からのお願い

 住所が判明している方には、「牧陵新聞」等の牧陵会活動報告や、同期の幹事の方から同期会開催等のご案内状をお送りします。

 牧陵会では、牧陵会活動への温かいご理解と、活動への積極的な参加をいただくため、宛先不明となっている会員の方々の現住所を確認する作業を進めております。
 このリストをご覧になられたご本人から、あるいは、同期生の現住所をご存知の方は、移転先住所等の下記変更事項を牧陵会事務局までご連絡いただければ幸いです。

《ご連絡いただきたい事項》
 【卒業期】・【氏名(旧姓も)】・【住所】・【電話番号】・【メールアドレス】等
 ※ 卒業期は、「緑高同期会」のページの早見表をご参照ください。

 個人情報を一般に公開することはありませんが、同期会開催のために要請があれば、同期会幹事に提供する場合があります。

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食文化と発酵 つれづれの記 2023/8/10

日本酒編

[野村邦男]

 かつて酒と言えば日本酒であり、古代より日本酒はお神酒(おみき)と呼ばれる様に神前に供え、祭りや結婚式などのハレのときに欠かせない飲み物であった。また、花見酒、月見酒、雪見酒など四季折々の景観を愛でつつ飲む酒は生活を豊かに彩るものであった。

花見酒  月見酒
花見酒         月見酒

現代でも家族との夕餉の団欒、友人たちとの歓談、仕事仲間との懇親など日本酒はコミュニケーションを楽しく和やかにする役割を果たしている。
 若い頃は日本酒を飲む機会が多かったが、その銘柄や品質についてあまり気にすることがなかった。近年じっくりと酒を味わう年代になり、日本酒が以前とは違い大変美味しくなっていることに気が付いた。
改めて日本酒の醸造方法や品質について知りたいと思うようになり、東京農大の社会人向けの日本酒に関する講座を受講した。小泉武夫教授(当時)をはじめ醸造発酵の多彩な講師の授業は学ぶことが多く楽しいものであった。特に山形天童の出羽桜酒造の社長仲野益美氏の講義は実践的であり興味深いものであった。講義の仕上げとして出羽桜酒造の製造現場での一泊研修が行われた。

2山形天童の景観 出羽桜酒造
山形天童の景観       出羽桜酒造

参加者は十数名であったが、その中で女性が半数近くもいたことに驚きを覚えた。特に最近の若い女性たちはワインばかりでなく日本酒にも関心を持ち、日本酒の魅力に惹かれているようである。宿泊先の旅館には出羽桜酒造の純米大吟醸酒など銘酒数々が届けられていて、それぞれの銘柄を賞味することができる有り難い研修であった。

微生物たちが協働して醸し出す傑作・日本酒

 日本酒造りは古代より長い年月をかけて培われた技であり、微小な生きものである微生物の働きを活用する高度な専門性を要する技術である。
酒造適合米の玄米を精米・洗米・浸漬そして蒸米にする。蒸米に黄麹菌を散布して米麴を造る。米麹に更に蒸米、麴菌、酵母菌を加え、酵母を大量に増殖させた酒母(しゅぼ)を造る。次に仕込み工程に移り、大型のタンクに入れた酒母に米麴と蒸米と水を三回に分けて加え醪(もろみ)をつくる。これが初添、中添、留添の三段仕込みである。醪の中では米麴の酵素が蒸米のデンプンを糖化してブドウ糖を生成し、酵母菌がこの糖分を栄養源としながらアルコールと炭酸ガスを生み出す、いわゆるアルコール発酵が進行する。
同時に乳酸菌が有害菌を除去して酒の腐敗を防ぎ、良質な酒を醸造するために重要な働きをしている。

米麹 酒母(しゅぼ) 醪(もろみ)
 米麹       酒母(しゅぼ)         醪(もろみ)

 醪の発酵タンク(古式は木桶)の中では、麹菌・酵母菌・乳酸菌などおよそ7百兆個(1mℓ当たり約1億個)とも言われる微小な生命体が千変万化する小宇宙(ミクロコスモス)を形成している。こうした神秘的な発酵作用によって生じる成分が芳醇な味わいと馥郁とした芳香の源泉となっている。
この醪はひと月ほどかけて発酵して原酒となる。搾り・濾過・火入れ工程を経ておよそ半年の間貯蔵された上、市場に出荷される。

伝統的な仕込み桶
伝統的な仕込み桶

古代から現代に至るまで、麹菌、酵母菌、乳酸菌などの目に見えない微生物の複雑な働きを巧に活用して、美味な日本酒を造ってきた杜氏(とうじ)と蔵人(くらびと)の知恵と技能に感動する。

 ちなみに日本酒は多種の微生物の複雑な働きを活用しコントロールする高度で緻密な技術を必要とする並行複発酵であるが、ワインはブドウを絞った果汁にワイン酵母加えてアルコール発酵を促進するという比較的シンプルな単発酵である。
ビールは大麦を発芽させた麦芽の酵素の働きで麦汁をつくり、ビール酵母を加えてアルコール発酵させホップを添加し風味を醸成する。
デンプンの糖化とアルコール発酵はそれぞれ別々のタンクで行う単行複発酵である。

美味しさが進化する日本酒

 日本酒は優良な酒造好適米を原料にし、清澄な水を仕込み水とし、麹菌・酵母菌・乳酸菌を活用にして醸造される。近年日本酒が以前と比べると大変美味しくなっているのは、酒蔵それぞれが酒づくりの技術を磨き、独自の品質と味わいを追求している成果であると思われる。
代表的な酒米として山田錦・百万石・美山錦・雄町などがあり、上質な酒米の使用により醸造される酒の味わいに特長が生まれる。

酒造好適米・山田錦
酒造好適米・山田錦

 また精米技術の向上により、米粒の周辺に付いているたんぱく質や脂質を除去し雑味を無くして上質な味を醸し出すことができるようになった。
酒米の周りを削り残った中心部分の割合・精米歩合(70%・60%・50%以下など)が表記され、酒の品質と風味の違いが分かるようになっている。
 酒造りには良質な水が欠かせない。仕込み水は酒質を左右する重要な成分であり、そのため酒蔵は清流や伏流水や湧水など優良な水が豊富に使える場所に立地している。ミネラル成分の含有量によって軟水と硬水があり、硬度のレベルによって酒質も味わいも違うものになる。

仕込み水
仕込み水
 
 酒造りには優良な清酒酵母が必要不可欠である。日本酒醸造協会では日本酒の品質向上のために毎年全国新酒鑑評会を行っている。全国の1400社ほどの酒蔵の中から連続して金賞などを得た特に優れた醸造所の清酒酵母を、協会酵母として全国の酒蔵に推奨頒布している。

清酒酵母
清酒酵母

 酒の醸造方法も多様化している。伝統的な生酛(きもと)造りや山廃(やまはい)造りがあるが、最近は米麹や醪の製法や品質管理に新しい技術と設備が導入されるようになっている。

伝統的な生酛仕込み
伝統的な生酛仕込み

酒造りのさまざまな改善によって酒質と美味しさのレベルが向上し、消費者の多様な好みやニーズに対応できるように進化している。

 かつて日本酒は徴税の都合で特級・一級・二級と格付けされ流通していた。
消費者は酒の本当の品質レベルが分からないままに、税率と価格によって格付けされた酒を飲んでいたことになる。現在では特定名称酒として酒米・米麹・精米歩合等がラベルに表示され、品質やグレードや特長が分かるようになっている。純米系(酒造米のみ・醸造アルコール無添加)では純米酒・特別純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒があり、醸造系(醸造アルコール添加)では本醸造酒・特別醸造酒・吟醸酒・大吟醸酒がある。
普通酒は特定名称の表示がなくアルコールが添加された比較的安価な酒である。消費者は辛口・甘口、淡麗・濃醇、香り華やか・穏やか、など自分の好みにあった酒を選別し購入することができる。

日本人の生活と文化に根づいた日本酒

 日本酒の歴史は、稲作が中国や朝鮮半島から伝播して米作りが広がる弥生時代から始まった。 古事記、日本書紀の中にも神事での酒に関する多くの記述がある。日本酒は高価で貴重なものであったので祭り、結婚式、祝儀などハレの行事に飲まれるものであり、庶民は日ごろ飲むことができないものであった。
お神酒と呼ばれるように日本酒は神に捧げる格別な飲み物であるということから、現在に至るまで結婚式の三々九度の盃などその作法に従っていることが多い。

神社奉献の酒樽
神社奉献の酒樽

神田三社祭
神田三社祭

 安土桃山時代は戦国の世でもあり全国各地で戦が繰り広げられていた。そうした中で千利休が茶の湯という侘茶の精神世界をつくり出した。茶の湯を通して明日の命もわからない武将たちが肝胆相照らすひと時を過ごす静謐な場として受け入れられた。しかし、茶の湯は茶を味わうことだけでなく、酒も酌み交わしていたようである。茶会の前半は懐石料理を食べ日本酒を飲み、後半は亭主が客人のために点てた濃茶や薄茶をいただくという4時間におよぶものであった。
狭い茶室の中で酒と茶を共にすることにより、情報交換や意志疎通が濃密に行われたていたものと想像される。

茶懐石・酒杯 茶の湯・濃茶
茶懐石・酒杯          茶の湯・濃茶

江戸時代は戦のない平穏な世の中となり、日本酒の需要が増大し兵庫の灘や京都の伏見をはじめ全国各地に多くの酒蔵が造られた。また醪を濾す技術が進歩して清澄な酒・清酒(せいしゅ、すみざけ)が造れるようになり、各地から江戸に樽廻船などで清酒が大量に運び込まれていた。
100万の人口を抱える江戸では大工・職人・商人たちが仕事を終えた後、屋台や居酒屋に立ち寄り酒を楽しんでいた。歌舞伎・寄席・相撲興行などが盛んになり観客は料理を食べ、酒を飲みながら見物をしていた。酒は庶民の日常生活から芸能・娯楽にいたるまで広く浸透していた。

江戸の居酒屋 
江戸の居酒屋

江戸・歌舞伎の桟敷
江戸・歌舞伎の桟敷

日本酒のメモリーズ

日本酒愛飲家ばかりでなく誰でも人生の節目や生活の折々に飲んだ酒の記憶はいつまでも残るものである。酒の味ばりでなく一緒に飲んだ人たちの顔や場面が自然に思い出される。
仙台在住の友人が春の松島を案内してくれた。夕陽に染まる松島湾の海と島々の眺めは実に美しく感動を覚えた。夕景色を愛でながら飲んだ宮城塩釜の浦霞(うらがすみ)という酒の味は印象深いものであった。
拙宅の近くの里山を保全整備するボランティア活動を続けている。夏の間伐作業を終えた後に、仲間たちと竹林の中で呑んだ信州諏訪の真澄(ますみ)という冷し酒は芳醇にして爽快な味わいであった。

松島・春の夕景色 多摩・里山の竹林
松島・春の夕景色       多摩・里山の竹林 

島崎藤村の足跡を辿り小諸を旅した折に、仲秋の夕暮れの景観と千曲川の流れを眺めながら藤村が愛したにごり酒を飲んだ。心に染み入るような風趣のある味わいは格別なものであった。
地吹雪の逆巻く中を秋田の鷹巣という山中の宿にようやくたどり着き、仕事仲間と囲炉裏端で呑んだ新政(あらまさ)という酒の味を忘れることができない。まさに五臓六腑にしみわたる燗酒であった。

千曲川・秋の夕暮れ  鷹巣・宿の囲炉裏端
千曲川・秋の夕暮れ       鷹巣・宿の囲炉裏端

偶然のことであるが、酒の味の記憶が残っている新政は協会酵母6号、真澄は協会酵母7号、浦霞は協会酵母12号と認定された優れた酒蔵の銘酒であることが後々になって分った。

四季折々の多様な料理とコラボする日本酒

日本酒は常温でもよく、燗にしてもよく、冷してもよい酒である。世界にはワイン・ビール・ウイスキー・紹興酒・ウオッカなど多種の酒があるが、飲む温度帯がこれほど幅広い酒は他にない。また酒造りの進化によって味わい・品質・グレードなど幅広いタイプの日本酒が開発され、TPOにマッチした酒質と銘柄を楽しむことができる。
日本には春夏秋冬の四季があり、寒暖の気候に合った料理と酒の飲み方が工夫されている。正月から年末に至るまで様々な行事があり、宴席には多種多様な料理と共に日本酒が常に添えられている。

刺身と日本酒 鍋料理と日本酒
刺身と日本酒      鍋料理と日本酒

四海に囲まれた日本列島は魚介の種類が実に多く、新鮮な魚介類の刺身や寿司には日本酒がぴったりである。また、四季に応じて野菜・穀物・果物・茸類の種類が多く、煮物・焼き物・揚げ物・鍋物など多様な料理に合わせて冷し酒や燗の酒を楽しむことができる。

フレンチと日本酒のペアリング
フレンチと日本酒のペアリング

最近では和風の料理ばかりでなく、日本酒に合うようにフレンチやイタリアンをアレンジした斬新なメニューがレストランや酒場で提供されている。
これからの日本酒はワインやビールと同じように多様な料理とのペアリングを楽しみながら飲むようになると思われる。

世界へと広がるJapaneseSake

かつて日本酒はライスワインと呼ばれるように認知度の低い酒であったが、近年はその品質と味わいが欧米・アジア諸国の人々に評価されるようになりSake又は
JapaneseSakeとして通用するようになっている。
2013年和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことにより、

ニューヨークのSakeBar  上海・菜館の料理と日本酒
ニューヨークのSakeBar      上海・菜館の料理と日本酒    

海外では日本食と日本酒についての関心が高まり日本酒愛好者が増えている。日本酒を扱うストア・レストラン・バーなどが増え、年々輸出が大幅に増加している。
醸造発酵技術の向上によって、従来の日本酒とは違ったタイプの酒の開発が進み、付加価値の高い高級酒が海外の人々に受け入れられているようである。
以前友人から頂戴した「獺祭・DASSAI」という純米大吟醸酒は格別な味わいのある酒であった。この日本酒は精米歩合が23%であり、高度な醸造技術で造られていて世界的に評価の高いブランドになっている。
今後、日本料理ばかりでなくフレンチ・イタリアン・中華など世界各地域の料理にもマッチする品質と味わいのあるSakeが開発され浸透するものと予想される。そして世界の食文化と日本の食文化であるJapaneseSakeが融合していくことになると思われる。
長年にわたり培ってきた麹菌・酵母菌・乳酸菌など微生物の働きを活用する酒造りの技術が世界を舞台にして活かされるようになると考えられる。

次回は微生物がつくる安価にして健康に役立つ納豆編につづく。

掲載日 2023年8月10日
記事作成者  野村邦男
   掲載責任者 深海なるみ(高15期)